よしなしごと其之参拾壱



兄貴

 かみさんの兄貴の話。
 かみさんの兄貴は元自衛隊の戦車乗りで、射撃優秀で賞を貰ったこともある大漢である。いい人なんだが、何分恐ろしげなご面相と相俟って、ちょっと知らない人は引くこと請け合いである。
 話は結婚前、かみさんと一緒に住んでた頃のことである。当時、そろそろ結婚なんて時期だったんで、一度かみさんの実家に行った後だったから、兄貴とは面識があったし、酒も呑んでいた。
 ある日の夜、もう午前二時も大分回った頃だったか、部屋の電話が鳴り響いた。レム睡眠状態ではあったが、大体夜中の電話なんて不幸系の電話に決まっている。何事が起きたかと、緊張して受話器を取った。
「わしや、お前妹泣かせたらぶっ殺すからな...ツーツー...」
酔っていつつも冷静な兄貴の声で、いきなりそれだけ言うと電話は切れた...呆然とする酔蝗、冷静な声だっただけに怖さ100倍であった。
 かみさん曰く、「何があったの?」酔「兄貴から、お前泣かしたら殺すって...」かみさん「何、それ?」酔「さぁ...お前何か言ったの?」かみさん「最近話してない...」
 翌日、かみさんが電話すると、ご本人はさっぱり覚えていないとのこと。
 まぁ、今では良い呑み仲間だからいいんだけどさぁ...