よしなしごと其之参拾弐



タクシー

 こいつは学生時代の友人である。広島出身でパンチパーマ、キャンパスにおばさんサンダル&ヤートラで来てた強者である。学生時代、いつも一緒に呑み歩いていたが、そのスジの方たちに妙に可愛がられる漢であった。卒業後は伯父上の手伝いで、土建屋さんの現場監督をしている。
 その卒業後の話である。一人で呑み歩くのが好きなこの漢は、仕事帰りに大宮辺りで一杯やっていたらしい。ふらふら歩いていると、キャバレーの呼び込みに声掛けられて中に入ったんだそうである。
 ところが、中はおばさんばっかで、この男店内で怒ったらしい。すると、奥から強面のスジ系の人達が登場...この漢、兄貴株の人に言ったそうである。
「そりゃないっすよねぇ、折角遊びに来たのにおばさんばっかじゃねぇ」
すると兄貴株の人がにっこり笑って言ったんだそうである。
「今日んところは大人しく帰りな。若いモンに送らせるから。」
結局、その人に結構な金握らされて、若いモンにタクシー乗り場まで送られて、向こう持ちでタクシー乗せられた挙げ句、若いモンの方々に、
「お疲れさまでした!」
と頭下げられて見送られたそうである。
 が、こんなエピソードは序の口である。やはり大宮辺りでの話。
 この漢、当時与野に住んでいたが、普通は呑んだ帰りにタクシーなんか使わない。では、何を使うか?暴走族を使うのである。帰ろうと思うとこの漢、暴走族の溜まり場に行くんだそうである。で、その中の車の一台に近付いて、運転席のガラスをコツコツやるんだそうである。なにしろ見た目が見た目なんで、暴走族が窓開けて、「なんですか?」と聞くんだそうである。この漢はストレートに「乗せろ」と一言言うんだそうである。それで100%家まで帰るってんだから、只者ではない。それだけならまだしも、車に族の女の子でも乗ってようもんなら、「ホテルまで送れ」って送らせるんだそうである。自分の彼女だろうに、やっぱ自分の方が可愛いんだな(笑)
 この話を聞いた時、「最近は酔って暴走族に近付くと、あいつら逃げるんだよなぁ」なんて笑っていたが、今ではこの漢も好いパパである...