よしなしごと其之参拾四



救急車その2

 二度目の救急車話である。
 それは前の話から一年以上経った、酔蝗の送別会での出来事。
 本社へ転勤となったので、事業所のメンバ全員で呑んでいたが、例によってまた豹変モードに突入。この漢をまいて、各自二次会へと散っていった。最後は所長宅で朝までと決まっていたので、時間までの解散であった。
 二次会から三次会へ移る時、酔蝗は三名ほどと歩いていたが、どこからともなくこの漢が現れた。仕方なく三件目で呑んで、タクシーで所長のマンション前へ。時間は2:00くらいだったかなぁ。タクシー降りた所は、坂の頂上で丁度カーブになっていて若干危険と言えなくはなかった。しかし、どっちからも車は来ていなかったし、道自体4〜5m幅の道路なので、道を渡って路肩を歩いていた。
 路肩をほんの数m歩いた時、坂の下から上がって来た見ず知らずの人が「危ないっ」と叫んだ。酔蝗が振り向いた時、丁度道の真ん中でふらふらしていたこの漢が跳ね飛ばされて、宙を舞っていた。思わず駆け寄ると、この漢白目剥いて泡吹いて痙攣していた。救急車を呼べと叫んだ時、ぶつかった車が動いた。運転手が出てくるかと思いきや...轢き逃げである。とっさにナンバを覚えたものの、急なこととて車検場までは分からなかった。
 救急車に乗せて病院に着くまでの間、この漢の意識は戻らなかった。病院で一時間以上、検査結果を待った。幸い怪我はなく、大丈夫だとは思うが念のため明日改めて脳波の検査を受けるようにとのことであった。轢き逃げだったため警察も来ていて、治療室から出てきた漢と一緒にパトカーで所長宅まで送ってもらった。漢を所長宅で寝かせるように言ってから、30分ほど現場検証に立ち会った。不運なことに小雨が降り始め、警察は傘も貸してくれないので、スーツ濡れ放題...やれ、お前なんで気付かなかったのかだの、俺の指何本か分かるかだの、侮辱の限りを浴びせる警官に怒りを押さえ、現場検証は終わった。
 所長の部屋の前まで行くと、中では大盛り上がり。時間は既に4:00近く。ドアを開け、「怪我人寝てんだから静かにしろっ」と言った酔蝗の目に飛び込んだのは、皆の真ん中で酒を呑む漢であった...
 言っておくけど、酔蝗の送別会だったのよ...