雨だれ


嘉平はまだ駆け出しの盗人だった。
一人働きで小さな山を重ねていたが、先週末にとうとうドジを踏んだ。

小金を貯め込んでいると噂のご隠居だった。
小奇麗な小さな屋敷に一人で住んでいた。
深夜、まんまと金を頂いていざ退散と言うところで、
物音に気付いたご隠居と廊下で顔を突き合わせてしまった。
嘉平が我に返った時、ご隠居はゆっくりとくず折れた。
嘉平にとっては、初めての殺しだった。
握ったままの匕首からやけに大きな音でご隠居の血が滴った。
ぴちゃり、ぴちゃり...

その日の夜は久しぶりの雨となった。
あれ以来、罪の意識が嘉平を眠らせず、酒が手放せなくなっていた。
酩酊の度合いがひどくなった頃、嘉平は水音に気が付いた。
ぴちゃり、ぴちゃり...
いやでも思い出させる音だった。
耳を覆った嘉平の四方を、雨だれの音が踊り回った。
ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり...
嘉平は外へ飛び出した。

翌朝、嘉平は橋の下にいた。
呆けた顔でへたり込んだ嘉平の目には、既に正気の色はなかったといふ...


[封印]