夢魔


又八は疲れていた。子の刻が過ぎる頃であった。
これでもう三日、急ぎの依頼に根を詰めて、
ろくに寝てもいなかったのだから。
うとうとしたとて、誰が責められようか。

ふと又八が気付くと辺りは夕闇の迫る時刻であった。
「こいつはいけねぇ、寝ちまったのか...」
呟いた途端、得も言えぬ恐怖に又八は捕らわれた。
理由は判らない。判らないが、振り向いてはいけないことだけは判った。
又八は硬く目をつぶった。
ふと目を開けると布団の中であった。
一瞬の戸惑いの後、部屋に満ちる煙と物の焦げる匂いに、又八は凍り付いた。
逃げねばと思う気持ちと裏腹に身体は動かず、煙に咽せて意識が遠退いた。
又八は水を飲み込んで目が覚めた。
海の直中であった。見渡す限りなにもなかった。
「なんだってんだっ」
又八は叫んだが、勿論答える者とていなかった。
どうして?なんで?今は何時で何処なんだ?
答えが出るとも思えなかったが、又八は考えざるを得なかった。
又八は四半時も泳いでいたが、元々泳ぎは得手ではなかった。
やがて力尽き、水面下に沈んで意識が曖昧になった。
そして、又八は気が付いた。そこは...

うつつと夢の傍らで、異形のモノの哄笑が続いていた...


[封印]