逢魔が刻


夕刻、伊勢屋の手代庄介は売り掛けを集めに行った帰り道だった。

庄介は真面目一途な男で、二十四のこの歳までお店大事で過ごして来た。
旦那や番頭の信頼も厚く、近々二番番頭に、と言う話も出ていた。
それがこの春、呑んだ仲間と初めて賭場へ行き、味を占めた。
給金からこつこつ貯めた金もいつしか底を尽いた。

庄介はここ十日ばかり、賭場へ行っていない。
が、虫を押さえるのも限界に来ていた。
今日もぼうっとしていて、番頭の利兵衛にどやされた。

博打がしたい、博打がしたい...
念仏のように繰り返し考えた庄介は一つの思念にぶつかった。
そうだ、この金借りようか...
勝てばすぐにも返せるし...
いや、お店の金だ...
旦那に申訳ない...
でも、盗む訳じゃなし...
二、三日ならごまかせるか...

とつおいつ考えながら、庄介が橋を渡った辻に差し掛かった時、
「頂いちまいな」
と言う聞き慣れた声がした。

顔を上げた庄介の前に、ニヤリと笑う庄介がいた...


[封印]