坂爪家は中々の高禄で、祖先の武功で有名な家だった。
その坂爪家知行の豪農の娘であるお絹は、乞われてこの家に奉公していた。
そして、二歳になる万千代の子守りはいつもお絹の仕事であった。

お絹がそれに気付いたのは、彼岸もいい加減過ぎたある日の昼下がりだった。
この日もいつものように、昼寝をしている万千代の横でうたた寝をしていたが、
万千代の笑い声にふと目覚めたお絹は、一人で遊ぶ万千代を見た。
が、壁に向かって笑いかける万千代のその向こうに、壁から生える骨太の一本の腕が
万千代に手招きしているのに気付いた時、お絹の意識は再び遠ざかった。

在所に逃げ戻ったお絹は、その後二度と武家奉公はしなかったといふ...


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