幸作はいつものように山に猟に出掛けた。
耕地の狭い山間のこの地では、猟は生きる為に必須の行為であった。
兎一匹見当たらず、つい深山まで踏み入った頃、ようやく雲行きが怪しくなった。

「こりゃあ、一雨あるな...」
独り言ちた幸作が、それでなくとも暗い森を戻りかけると、一町程先に気配があった。
密かに近付いた幸作が木の葉隠れに見たものは、異形の者達の宴であった。
その場に張り付いて息を呑んだが、不思議と恐怖は感じなかった。
異形の者達は姿こそ恐ろしげであったが、宴のこととて楽しげであったせいかも知れない。
暫く呑みかつ歌い踊る異形の者達を観ていた幸作であったが、
踏み折った小枝の音に彼らが一斉に振り向いた時、初めて恐怖に縛られた。
後をも見ずに樹間を逃げ駆ける幸作を雨が追った...

日暮れ過ぎに漸う家に帰りついた幸作は、女房の問い掛けにも答えず、
粗末なめしを食った後、いつもより早く寝に就いた。

深夜、寝苦しさに目覚めた幸作は、己が胸の上に蹲る一匹の異形のものを観た。
異形のものの口から場違いな台詞が漏れた。
「お代を頂きに参上」
忍び嗤う異形のものの腕が徐々に上がった...


[封印]