景陽岡
ここの麓には一軒の居酒屋があるんじゃが、鄙には希な地酒を呑ますんじゃ。『透瓶香』、またの名を『出門倒』と言うんじゃが、その名の通り「香りが酒瓶を突き抜けて」「呑むと門を出た途端にぶっ倒れる」強い酒らしい。
だから、店の親父は三杯しか呑ませないんじゃ。酔っぱらって景陽岡の峠を越せなくなるからの。店の外に出ている看板の『三碗にして岡を過ぎず』はこの謂いじゃ。
これを武松は十八杯も呑んだんじゃぞ。とても敵わん...
酒の勢いとは恐ろしいもんじゃな、そのまま店の親父の制止も振り切って、景陽岡に登って行って虎に出くわしたんじゃから。
酔ってた武松は棒で虎を打とうとして、松の木にぶつけて折ってしもうたから、素手で虎と闘ったんじゃ。殴る蹴るで虎を殺したのは確かじゃが、どっちかと言うと「怪我の功名」的ではあるな(笑)