<銭>
銭の話は金銭糧食担当統領のこのわし、李応がお相手しよう。
今の倭国でも、「堅気は金に汚い」とその筋の人は言うらしいが、我ら好漢も同様だ。あんまりみみっちいと、李忠みたいに馬鹿にされるな。そう言う下地は、貨幣経済の発達にあるんだ。
宋代は都市での消費が大きかったこともあって、貨幣経済がすごく進んだんだ。善し悪しは別にして、平和でも信用でも何でも金で買えた時代なんだな。バブル期の倭国みたいだな。
水滸伝の中には、それこそ十万貫から数十文まで、いろんな場面で金のやりとりが出てくるんだが、ちょっとピンと来ないんじゃないか?そうだろう、そうだろう。じゃあ、試しに今の倭国の金額に換算して、実感してもらおうか。
まずは宋代の貨幣単位だが、
一貫=一千文
銀一両=銭一貫
で計算することにしよう。本当は、相場で変動するし、銭の場合は短陌とか省陌とか呼ばれる制度があって、政府の公定レートで七十七文を以って百文として通用させていたのだな。だがこれも、政府の公定レート以外にそれぞれの業種毎に業界公定レートがあった。『東京夢華録』によれば、開封では市中の一般レートが七十五文、魚・肉・野菜の店では七十二文、貴金属店では七十四文、宝石店・女中の賃金・ペットショップでは六十八文、書肆では五十六文とばらばらだった。それに対して、百文を百文きっちりで支払うことを足銭と呼んだんだ。今回はややこしいから、足銭で計算することにするぞ。
さて、次に一文を今の倭国のいくらに換算するかだが、これも『東京夢華録』の中の数字を使わせていただこう。使うのは、『東京夢華録』のここの部分。
・小さい酒屋のつまみは一品十五銭足らず
・明け方、居酒屋で出す飯が一人前二十文足らず
・少し小型で両輪の前方の長い轅に横木を付けて牛に引かせる車が一貫五百文
これを何に置き換えるかだが、こう置き換えた。
・大衆酒場のつまみは店によっていろいろだけど、まぁ一品500円〜600円
・喫茶店のモーニングがこれもまちまちだけども、600円〜800円
・今の価格でリヤカーが大体5万円〜6万円
そんなにおかしくないと思うんだが、特にリヤカーはミヤジマ工業さんの定価を参照させていただいた。そこで、これを正しいと考えて換算すると、
一文=30円〜40円
と言うことになるな。だが幅を持たすと面倒だから、ここでは中を採って、
一文=35円
としておこう。
それで、これを基に換算すると、水滸伝に出てくる金額はこんな感じだな。
・肉屋の鄭が金翠蓮親子から巻き上げようとした身代金三千貫=1億5百万円!
・魯達(魯智深)が史進と出し合って金翠蓮親子に持たせた銀十五両=52万5千円
・五臺山で魯智深が打たせた禅杖と戒刀1セット銀五両=17万5千円
・林冲が街で値切って買った名刀一千貫=3千5百万円!
・柴進が林冲と洪教頭との勝負に出した賞金錠銀二十五両=87万5千円
・開封で楊志の吹毛剣三千貫に対して、牛二が買ったと言う包丁が三十文=1050円
・梁中書から蔡京への生辰綱十万貫=35億円!!
・白勝の担いだ酒が一桶五貫=17万5千円!!!
・快活林の月々の施恩への冥加金が二、三百両=7百万円〜1千50万円
・江州の事件後の宋江の首に掛かった賞金一万貫=3億5千万円
・王太尉が賽唐猊に付けた買値三万貫=10億5千万円
・呉用が化けた談天口の占いの見料が一両=3万5千円
・蔡福が李固に要求した盧俊義の始末料五百両=1千750万円
・柴進が蔡福に渡した盧俊義の助命料一千両=3千5百万円
他にも出てくるから、見てみるのも面白かろうな。