蕭譲 | 「しかし、何だなぁ。」 |
金大堅 | 「ん?」 |
蕭譲 | 「わしらも良民だった頃から考えると、随分変わったなぁ。」 |
金大堅 | 「お主、後悔してるのか?」 |
蕭譲 | 「いや、とんでもない。逆だな。」 |
金大堅 | 「さもあろうよ。」 |
蕭譲 | 「十年一日とは良く言ったもんだ。」 |
金大堅 | 「山では文墨の徒とは言え、皆同様につき合ってくれるしな。」 |
蕭譲 | 「生活の心配もないに等しいし...」 |
金大堅 | 「確かに。まぁ、お世辞にも裕福とは言えなかったもんなぁ、あの頃。」 |
蕭譲 | 「そうだろ。よく二人して、安い呑み屋で呑んだっけなぁ。」 |
金大堅 | 「おぉ、安かったね、あの店は。安かろう、不味かろうだったけども。」 |
蕭譲 | 「そこ行くと、ここも他も山の呑み屋は旨いよな。」 |
金大堅 | 「そうだな。安いし。」 |
蕭譲 | 「あの頃もこの位の味の店がありゃあな。」 |
金大堅 | 「あの町の居酒屋は、どこも駄目だったな、そう言えば。」 |
蕭譲 | 「金出せばそれなりの酒楼もあったけど、精々月一位しか行けなかったもんなぁ」 |
金大堅 | 「何であの頃、あんなに貧乏だったのかねぇ?」 |
蕭譲 | 「わしもお主も、腕は一流だったのになぁ。」 |
金大堅 | 「まぁ、半端な仕事が多かったからな。金にならないような。」 |
蕭譲 | 「デカイ仕事なんて、何年に一度だったな、確かに。」 |
金大堅 | 「世間で言う『器用貧乏』って奴だな。」 |
蕭譲 | 「全く、かつてのわしらのためにあるような言葉だな。」 |
陶宗旺 | 「おっ、馴染み同士で昔話かい?」 |
蕭譲 | 「あはは、ちょいと懐かしくなってな。」 |
金大堅 | 「何、昔の貧乏話だよ。」 |
陶宗旺 | 「貧乏か。貧乏なら負けねぇよ。」 |
蕭譲 | 「だったらしいな。」 |
陶宗旺 | 「なんせ、百姓仕事と喧嘩しかできなかったしな。それに小作だったし。将に食うや食わずだったな。水しか飲めない時もあったから、本当の『水呑百姓』って奴だ。」 |
金大堅 | 「...そこまで凄かったんだ。」 |
陶宗旺 | 「おぉよ、貧乏語らせたら一番だぜ。食い物が口に入るようなのは、貧乏の風上にも置けねぇよ。」 |
蕭譲 | 「...そ、そんなもんかね。」 |
陶宗旺 | 「木の皮の旨い食い方知ってるか?今度ご馳走してやるよ。」 |
蕭譲 | 「...」 |
金大堅 | 「...」 |