雷横 | 「どうしたよ、機嫌悪そうだけど」 |
湯隆 | 「いやさ、皆俺っちの作った武具の扱いがいい加減だなと思ってさ」 |
雷横 | 「何かあったのか?」 |
湯隆 | 「何かってんじゃないけどさ、例えば和尚とか行者とか呼延灼の旦那とか、以前から自分愛用の武器持ってる連中は愛着あって当然だけどね」 |
雷横 | 「まぁなぁ。毎日使うモノってもんは、使えば使うほど手に馴染んでくるからなぁ」 |
湯隆 | 「うん、そうだな。でさ、その手の連中に比べると、山に来てから俺っちが打った武器使ってるの方が圧倒的に多いじゃんか?」 |
雷横 | 「そうだねぇ、槍だ朴刀だ剣だ刀なんて、あり勝ちな武器使ってる連中はほとんどだな」 |
湯隆 | 「そんな奴らってさ、戦場出てちょっと負けそうになると武器投げ捨てて逃げちゃったりするだろ?」 |
雷横 | 「いや、命とどっちってったらさ、そりゃ命でも仕方ねぇんじゃないの?」 |
湯隆 | 「そりゃそうだけど、武器引き摺ってでも持って逃げてくれる奴もいるわけでさ」 |
雷横 | 「言われてみりゃ確かにな」 |
湯隆 | 「だろ?連中の武器だってさ、小者の使う大量生産品じゃなくて、オーダー聞いて直接俺が打ってるわけで、俺としちゃ何ともやる瀬無いのよ」 |
雷横 | 「う〜ん、職人としちゃ至極尤もな話だなぁ」 |
湯隆 | 「武芸の腕の無い奴ほど、オーダーって言っても、やれ『名前彫れ』だの、『金象眼しろ』だの、見栄えばっか拘ってさ、本来の武器としてどうして欲しいって希望がないか、適当に見繕ってくれ、なんてこと言いやがるんだよな」 |
雷横 | 「判る気がする...」 |
湯隆 | 「武器はさ、俺たちの表芸の道具なわけだろ?最後に自分を守ってくれるモノでもあるし」 |
雷横 | 「その通りだな」 |
湯隆 | 「だからさ、もうちょっと何つーか、気を使ってくれても良いと思うわけよ」 |
雷横 | 「なるほどなぁ」 |
湯隆 | 「そこいくと、林教頭は流石だね」 |
雷横 | 「そうなのか?」 |
湯隆 | 「教頭の蛇矛はね、俺が山に来てからわざわざ尋ねて来てくれて、作り直して欲しいって依頼されたもんでさ、素材も重さも注文があったんだぜ」 |
雷横 | 「硬派なあの人らしいねぇ」 |
湯隆 | 「で、形も今度は先割れにして欲しいってんで、切っ先を二股にしたんだよ」 |
雷横 | 「ま、特別珍しいわけじゃねぇけど、より刃形が複雑な方が与えるダメージもデカいからなぁ」 |
湯隆 | 「そのことよ、流石に腕に覚えのある方は、地味ではあってもちょいと違う注文で、職人としちゃあ奮う腕にも力が入ろうってもんだよな」 |
雷横 | 「そうだな、今度教頭呼んで一緒に呑むか?」 |
湯隆 | 「だな、感謝の気持ちを込めて、な」 |