安道全 | 「はい、次の方どうぞ〜」 |
皇甫端 | 「安先生、よろしく…っ、痛てて…」 |
安道全 | 「どうされた、紫髯伯?」 |
皇甫端 | 「いやぁ、治療中の馬に蹴られてなぁ。アバラ折れたかもしれんのよ」 |
安道全 | 「馬を看る名人のお主が蹴られるとは、珍しい」 |
皇甫端 | 「ホラ、ここの馬って軍馬が多いじゃん。気性が荒いから、乗り手以外の言うことは訊かない、みたいなのがいてさ」 |
安道全 | 「ああ、そいうことか」 |
皇甫端 | 「その点、先生はいいよなぁ。人間が相手だから」 |
安道全 | 「何いっとるか。命がけなんじゃぞ、わしも」 |
皇甫端 | 「どうして?」 |
安道全 | 「わしとて、神ではない。治せないものは治せん。生あるのもは必ず終わりが来る」 |
皇甫端 | 「それはそうだ」 |
安道全 | 「で、例えばだ。武松なんかが不治の病になって、わしのところに来たとする。だがわしの力も及ばず、武松は息を引き取った、とする」 |
皇甫端 | 「まぁ、武松だって人の子だからなぁ」 |
安道全 | 「そうなればその晩、無数の武松ファンの婦女子がわしの家を取り囲むじゃろう。手に手に槍や弓を持って…」 |
皇甫端 | 「………」 |
安道全 | 「…時々、そんな夢を見るんじゃ。昨晩は、燕青が臨終する夢じゃった…」 |
皇甫端 | 「胃に穴が空きそうな夢だな…」 |
安道全 | 「ここだけの話じゃが、胃潰瘍がひどくなりすぎたんで、この間胃を切ったんじゃ。自分で…」 |
皇甫端 | 「自分で、って…あんたはハザマ・クロオか?」 |
安道全 | 「さぁ、話はこれくらいにしよう。どれ、診せてみなさい…」 |