事の起り...
そう、あれは大宋は仁宗の御代のことじゃ、良い天子さまじゃったが、都に流行り病が広まりましてな。帝は大層悩まれて、道教のえらい天師さまにお祈りをしてもらおうと思い立たれた。そして、洪信と言う大将がお使いに行かれたが、この大将が開かずの社に封印された魔王どもを解き放ってしまわれたのじゃ。四方に飛び散った魔王どもは三十六の大魔王と七十二の小魔王、合わせて壱百八魔王だったそうじゃ。
彼らはどこへ隠れたものやら...
時は下って...
それから五十年ほども経って、徽宗皇帝が御位に就かれた頃には世の中も悪くなりおっての。ふ、とした拍子に高イ求と言う遊び人が出世したんじゃが、こやつを始め大臣どもは悪党ばかりじゃった。世の人々は四姦と呼んでこやつらを憎んでいたのじゃ。
こやつらがのさばったのには理由があってな。徽宗と言う帝は風流天子と呼ばれてゲージツ家だったんじゃな。今でも作品は有名じゃろうが。「政治以外はなんでもござれ」で、四姦どもが実権を握ることになったのじゃな。ゲージツには金がかかるでな、皺寄せを背負わされた庶民の間に不満が広まっていったそうな。
漢ども...
上が悪けりゃなんとやらでな、その頃の役人どもがまた悪くての。いじめる、搾る、巻き上げる陥れる...やりたい放題じゃった。
じゃが、踏みつけられた庶民も黙ってはいなかった!お百姓、下っ端の兵隊、漁師、商人、職人、猟師、数少ない良吏たち。山賊、盗人、密売人、ばくち打ち。かの漢どもの仕事はさまざまじゃったが、不公平な世間への怒り、義を貴ぶ男伊達の心意気、腕っ節と反骨は共通のものでの。それぞれに理由は違っても、宿命と言うべきか、やがて遊侠の世界に入っていったのじゃ。
かの漢どもは旅をねぐらにしておったから、行く先々で名のある漢同士意気投合して、義兄弟の杯を重ね合った。無論、豪傑たちのすること、それだけでは終わらずにいろいろな事件を起こしながらの放蕩無頼じゃ。史進、林冲、魯智深といった輩じゃな。
やがて、役人に追われ山にのぼり、仲間を集っておおっぴらに反抗するようになった...
旗揚げ...
そんな山の一つに梁山泊と言う塞があってな。湖に囲まれた大きな山塞じゃ。そこの統領は元々王倫と言う書生崩れの男だったのじゃが、ここへ晁蓋、呉用、公孫勝、劉唐、阮三兄弟と言う漢たちが高官への誕生祝いを分捕って頼って行った。
しかし、王倫は器量が小さく義に反するような奴だったのでな、晁蓋に取って代わられたのじゃ。かの七名と王倫以外の頭立った者達は山塞の風紀を一新して、呉用、公孫勝を中心に軍備を整えるようになっていったのじゃよ。
じゃが、役人どももうっちゃってはいなかった。地方の軍勢を繰り出したが、梁山泊はその度に撃退しての。益々大きくなっていったのじゃ...
結集...
さて、話は変わるが、鄲城県と言う所に宋江と言う至って真面目な小役人がおった。晁蓋たちもこの漢に助けられたが、面倒見が良くて好漢仲間ではなぜか名の売れた漢じゃった。
その宋江がちょっとしたはずみで性悪な自分の妾を殺してしまっての、知り合いを頼って身を隠した。その頃、世間には名の売れた好漢が沢山おってな、皆宋江の名を知っておったから義兄弟は増えて、梁山泊へと集まっていったんじゃ。中には花栄、秦明などの高級軍人もおったよ。
じゃが、父親思いの宋江が故郷に戻った折りに遂に役人に捕まっての、江州へ流罪となった。ここで宋江は酔った勢いで下手な叛詩を書いた事がきっかけで死罪になりかけ、地元の李俊、張横張順兄弟を始めとする好漢や梁山泊の好漢達に命を救われ、大騒動の末、皆梁山泊の一員となったのじゃ。
父親を迎えに言った宋江が、九天玄女とおっしゃる女神に天書と言う秘密の書物を頂いたのもこの頃のことじゃった...
回りの出来事...
いろんな漢がおったのう。武松と言う漢がおった。酒好きの大男で、力が強くて拳法の達人じゃったが、逃亡中の宋江と後周の天子の末孫柴進と言う漢の館で義兄弟となった。
宋江と別れた後、酔っ払って素手で虎を打殺してな。当時の世間はその噂で持切りでの。そりゃあ、男を挙げたもんじゃった。
その武松の実の兄が兄嫁の潘金蓮と間男の西門慶に殺されたのじゃ。金に弱い役人どもは、西門慶に鼻薬を嗅がされて武松の訴えを斥けおった。血の気の多い武松のこと、自らの手で敵を取ってお決まりの流罪と相成った。
語るのもいやになるが、配流先にも悪役人がおってな、ここでも罪を着せられた武松は逐電して二竜山へのぼった。ここには魯智深や、晁蓋たちが奪った誕生祝いの輸送頭で、罰を恐れた楊家の末裔楊志が手下を揃えておったのに仲間入りしたのじゃ。
丁度、宋江が花栄を尋ねた頃のことじゃったな...
また、宋江が梁山泊に加わったすぐ後の頃のことじゃが、江州で仲間入りした戴宗が神行法と言う日に数百里も行ける道術を使って公孫勝を探す道すがら、多くの面白い漢達に出会っておった。皆、のちに梁山泊の仲間となる者達じゃが、中でも首切り役人楊雄、薪売りの石秀は出色じゃった。
街でゴロツキの兵隊達に絡まれていた楊雄を義に厚い石秀が単身助っ人しての。意気投合した二人は義兄弟の契りを交わし、楊雄の舅の世話で石秀は肉屋を始めた。
楊雄は好い漢なんじゃが、女房は気の多い女でのう。生臭坊主と浮気の挙げ句、楊雄を焚き付けて感付いた石秀と仲違いさせおった。
しかし、そこは義兄弟のこと、全てを知った楊雄は石秀への義を果たすべく、淫蕩な女房を成敗してその場に居合わせた盗人時遷と三人で梁山泊へ向かったのじゃ...
さて、この店も飽きましたな。ちょっと、河岸を替えてもう少々語るといたそうか。
さようか、行きなさるか。では善は急げじゃ。
これ、帳付けの衆、お勘定を...